はじめに

派遣社員を受け入れる際は、派遣先責任者や指揮命令者だけでなく、派遣社員から苦情や相談の申出を受ける窓口についても、あらかじめ明確にしておく必要があります。

労働者派遣契約では、派遣先企業(以下、派遣先)と派遣会社の双方について「苦情の申出を受ける者」を定めます。本記事では、このうち派遣先側の担当者を、便宜上「苦情申出先担当者」と表記します。

派遣社員からの苦情や相談は、雇用主である派遣会社だけで対応できるとは限りません。業務内容、指揮命令、職場環境、人間関係など、派遣先での就業に関係する内容については、派遣先と派遣会社が連携して対応する必要があります。

本記事では、苦情申出先担当者の役割と、担当者を定める際の注意点について解説します。

苦情申出先担当者の役割

苦情申出先担当者の役割は、主に次のとおりです。

  • 派遣社員からの苦情や相談の受付・内容の整理
  • 派遣先責任者への共有と派遣会社への連絡
  • 対応状況の確認と記録の確保
  • 再発防止に向けた関係者との調整

派遣社員からの苦情や相談の受付・内容の整理

派遣社員からの苦情や相談を受け付け、内容を整理することが主な役割の一つです。受け付けた内容は、必要に応じて派遣先責任者に共有します。実務上は、派遣先責任者や指揮命令者などの関係者と連携しながら、解決に向けた対応を進めることが重要です。

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派遣先責任者への共有と派遣会社への連絡

派遣社員から派遣就業に関する苦情を受けた場合は、社内の派遣先責任者に内容を共有し、派遣会社に速やかに通知します。苦情申出先担当者だけで判断したり、対応を後回しにしたりせず、関係者と連携して解決に向けた対応を進めることが重要です。

対応状況の確認と記録の確保

苦情への対応状況を確認し、社内の役割分担に応じて、必要な記録が残されるようにします。

派遣先は、苦情の申出を受けたときや苦情の処理を行ったときは、その都度、派遣先管理台帳に「苦情の申出を受けた年月日」「苦情の内容」「苦情の処理状況」を記載し、その内容を派遣元事業主(派遣会社)に通知する必要があります。苦情申出先担当者が記録を行う場合もあれば、派遣先責任者や人事・総務部門が記録を行う場合もあるため、あらかじめ担当者を決めておきましょう。

再発防止に向けた関係者との調整

苦情への対応が完了した後も、事実関係と発生要因を整理し、必要に応じて業務指示、受け入れ体制、職場環境、情報共有の方法などを見直します。特定の個人の責任だけに帰するのではなく、同様の問題が生じにくい運用に改善することが重要です。

苦情申出先担当者と各担当者の役割の違い

苦情申出先担当者と各担当者の役割の違いについて整理します。

苦情申出先担当者は、派遣社員から苦情や相談を受け、内容を整理したうえで、関係者につなぐ窓口としての役割を担います。

一方、派遣先責任者は、派遣先側で苦情処理を中心となって進め、派遣会社との連絡・調整を行う立場です。指揮命令者は、労働者派遣契約で定めた業務の範囲内で日々の業務指示を行い、派遣社員の就業状況を把握します。つまり、苦情申出先担当者は「苦情を受け付けて整理する窓口」、派遣先責任者は「苦情処理を進める中心的な担当者」、指揮命令者は「受け入れ部署で業務指示と就業状況の確認を行う担当者」という違いがあります。

ただし、苦情の内容が苦情申出先担当者本人や指揮命令者に関係する場合に備え、別の相談先や代替窓口も定めておくことが重要です。

なお、苦情申出先担当者、指揮命令者、派遣先責任者を同じ人物が兼務することも可能です。兼務する場合も、それぞれの役割を区別し、必要な情報が社内関係者や派遣会社に共有される体制を整えておきましょう。

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苦情申出先担当者を定める際の注意点

苦情申出先担当者になるための法律上の資格は定められていません。

ただし、派遣社員からの相談窓口となるため、派遣社員が担当する業務や社内の就業環境について理解していることが求められます。加えて、派遣社員からの相談を真摯に聞く姿勢、相談内容を整理して派遣先責任者に取り次ぐ能力、個人情報の保護やハラスメントに関する知識を有していると、より安心して相談できる窓口になります。

また、苦情申出先担当者については、定めた後に労働者派遣契約に担当者を記載するだけでなく、派遣社員の受け入れ時に、苦情の申出先、連絡方法、苦情処理の流れを説明することも忘れないようにしましょう。担当者が不在の場合や、担当者本人に関する苦情が生じた場合に利用できる代替窓口についても、あらかじめ明確にしておくことが重要です。

なお、苦情や相談には、派遣社員や関係者の個人情報、プライバシーに関する内容が含まれることがあります。情報の共有先は、苦情処理に必要な関係者に限定します。派遣会社への通知など、法令や労働者派遣契約に基づく共有を行う際も、可能な範囲で共有の目的や範囲を本人に説明し、その意向にも配慮しましょう。

苦情を申し出たことを理由として、派遣社員に不利益な取扱いをすることは認められません。相談内容を評価や契約更新の判断と安易に結び付けないよう、関係者間で取り扱いを確認しておくことが重要です。

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まとめ

苦情申出先担当者は、派遣社員からの苦情や相談を受け付け、内容を整理したうえで、派遣先責任者や派遣会社による適切な処理につなげる重要な役割を担います。派遣社員の雇用主は派遣会社ですが、派遣先での指揮命令、職場環境、業務内容に関する苦情については、派遣先も主体的に対応する必要があります。

担当者を定めるだけでなく、派遣社員への周知、担当者不在時の代替窓口、必要最小限の情報共有、派遣先管理台帳への記録、派遣会社への通知まで含めて、苦情処理の体制を整えておくことが重要です。

執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日