はじめに

派遣会社の担当者から「受け入れ部署の責任者には、こちらから連絡しておきます」と説明を受け、そのまま対応を任せたものの、後になって窓口担当者と受け入れ部署の責任者の認識が一致していなかった。派遣社員の受け入れ実務では、このような行き違いが起こることがあります。

派遣先企業(以下、派遣先)では、派遣会社との窓口担当者、受け入れ部署の責任者、指揮命令者をそれぞれ別の社員が担当していることがあります。派遣会社からの説明が社内で正確に共有されなければ、対応の遅れや重複、派遣社員本人への説明の食い違いにつながる可能性があります。

派遣社員の雇用主は派遣会社である一方、日常の業務指示は派遣先が行います。雇用関係と指揮命令関係が分かれているため、派遣先・派遣会社・派遣社員の間で、必要な情報や対応方針を正確に共有することが重要です。

本記事では、派遣先の立場から、電話とメールの使い分けや記録の残し方など、派遣会社との認識の相違を防ぐための実務上のポイントを解説します。

関連する相談例:業務内容について、派遣先・派遣会社・派遣社員の間で認識の相違が起きており、対応方法に悩んでいる

関連コラム:派遣会社との窓口担当者の役割と運用のポイント

派遣会社とのやりとりでは、次のような場面で認識の相違が起きやすくなります。

  • 体調不良や欠勤・遅刻・早退などの勤怠連絡を受けた場面
  • 業務内容や優先順位、指示方法を変更する場面
  • 派遣社員に対して職場内で注意・指導した場面
  • 派遣社員本人から相談や苦情を受けた場面
  • 契約内容、契約更新・終了、交代について協議する場面
  • 派遣社員を直接雇用に切り替えることについて協議する場面

これらはいずれも派遣先、派遣会社、派遣社員本人の三者が関係する内容です。関係者が異なる認識のまま話を進めると、後から相違に気づいた際に、その解消や対応内容の修正に時間を要することがあります。

たとえば、派遣先が派遣社員本人に職場内で注意した内容を、対応済みの事実共有として派遣会社に伝えたところ、派遣会社が追加の指導依頼と受け止め、本人に同じ内容を改めて注意する場合があります。その結果、派遣社員本人は、同じ内容について二重に注意を受けたように感じ、派遣先と派遣会社の連携に不信感を持つきっかけになることがあります。

また、勤怠に関する連絡は条件や前提を正確に共有することが重要です。「体調が回復すれば出社する」という連絡から「体調が回復すれば」という条件が抜けると、派遣先が出社予定だと受け止める可能性があります。相手に正しく伝わったか確信を持てない場合は、電話を終える前に要点を復唱するなど、認識を確認しましょう。

なお、体調や家庭事情など、派遣社員本人の個人的事情に関わる情報については、まず本人から派遣会社に伝えてもらうことを基本とします。派遣先から派遣会社に共有する必要がある場合は、その必要性と範囲を整理し、原則として本人の同意を得たうえで、必要最小限の情報に留めることが望ましいといえます。

関連コラム:派遣社員とのトラブルを防ぐために派遣先企業ができる実務対応

やりとりは電話とメールを使い分ける

派遣先と派遣会社は、就業中の派遣社員に関して、必要に応じて連絡や調整を行います。その際に、電話だけでやりとりを完結させた場合、後から内容を確認しにくくなり、お互いの認識の相違に気づくのが遅れることがあります。

電話連絡には、相手の反応を確認しながら話を進めることができるメリットがあるため、急ぎの連絡や細かな状況を説明したい場面では、電話連絡の方が適している場合もあります。

ただし、就業中の派遣社員に関するやりとりで認識の相違が生じると、派遣社員本人にも影響が及ぶことがあります。本人の受け止め方によっては、派遣先や派遣会社への信頼や、今後の継続就業に影響する可能性があるため、内容に応じて、電話とメールを組み合わせて対応することが大切です。

以下は、派遣先から派遣会社へ、電話で確認した内容をメールで送る場合の例です。

件名:【認識確認】派遣社員の出社予定について

先ほどのお電話について、弊社では次のように認識しております。

  • 本日は体調不良により欠勤する。
  • 明日以降の出社は、体調の回復状況を確認したうえで判断する。
  • 貴社にて本人の状況をご確認いただき、出社予定が確定した段階で弊社にご連絡いただく。

念のため、認識に相違がないかご確認をお願いいたします。

「誰が・誰に・いつ・何を伝えたか」の記録を残す

認識の相違を防ぐには、電話での連絡内容を後から確認できる状態にしておくことが重要です。電話だけでやりとりを終えたり、簡単なメモしか残していなかったりすると、後から経緯を確認する必要が生じた際に、対応が難しくなることがあります。

そのため、次の内容を含めた記録を残すとよいでしょう。

  • 連絡日時
  • 対象となる派遣社員
  • 連絡者(所属・氏名)
  • 連絡相手(所属・氏名)
  • 伝えた内容
  • 相手の回答・認識
  • 次回の対応(担当者・期限)
  • その他の共有事項

関連コラム:派遣社員の勤怠管理でトラブルを防ぐための運用ルール

社内の共有先と記録の保存場所を決める

派遣会社とのやりとりを窓口担当者だけが把握している場合、担当者の不在時や人事異動の際に、過去の経緯を確認できなくなることがあります。そのため、派遣会社との連絡については、内容に応じて誰に共有するか、記録をどこに保存するかをあらかじめ決めておくことが重要です。

たとえば、次のような事項を社内で整理しておくとよいでしょう。

  • 窓口担当者、受け入れ部署、指揮命令者、人事・総務の共有範囲
  • 派遣会社とのメールや連絡記録の保存場所
  • 担当者が不在の場合の代理対応者
  • 次に行う対応と期限
  • 派遣社員の個人情報を共有する範囲

個々の担当者の記憶に頼らず、必要な関係者が経緯を確認できる状態をつくることで、担当者間の認識の相違や対応漏れを防ぎやすくなります。

派遣会社とのやりとりにおける認識の相違を防ぐためのポイント

次の対応を意識することで、認識の相違を防ぎやすくなります。

  • やりとりの中で認識の相違や違和感があった場合は、放置せず確認する
  • 条件や前提を省略せず、必要に応じて要点を復唱する
  • 内容によっては電話だけで対応を終わらせず、メールなどで記録を残す
  • 記録には「誰が・誰に・いつ・何を伝えたか」を含める

まとめ

派遣会社とのやりとりで重要なのは、連絡手段を電話かメールのどちらかに一律に決めることではなく、内容や緊急度に応じて使い分け、後から確認できる状態をつくることです。認識の相違や違和感に気づいた場合は、曖昧なまま対応を進めず、契約書、メール、連絡記録などを確認したうえで、関係者ごとの認識と次に行う対応を整理しましょう。

当事務所では、派遣会社との対立を前提とせず、派遣先の立場から、派遣会社に確認すべき事項、社内で決めるべき事項、今後の対応方針を整理しています。「派遣会社とのやりとりがうまくいかない」「言った・言っていないという状況を避けたい」「誰に何を確認すべきか分からない」といった場合は、状況がまとまっていない段階でもご相談いただけます。

執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日