はじめに

派遣社員を受け入れる際は、日々の業務指示だけでなく、契約内容の確認、就業状況の把握、苦情への対応、派遣会社との連絡・調整を行う体制が必要です。その中心となるのが派遣先責任者です。

派遣先責任者を形式的に選任するだけでは、受け入れ部署から必要な情報が集まらず、契約内容とのずれやトラブルへの対応が遅れることがあります。

本記事では、派遣先責任者の主な役割、指揮命令者などとの違い、選任時に確認したいポイントについて解説します。

派遣先責任者とは、派遣先企業(以下、派遣先)における派遣労働者の就業管理を一元的に行い、適正な派遣就業を確保するために選任される担当者です。

派遣先は、原則として、事業所その他派遣就業の場所ごとに、専属の派遣先責任者を選任します。選任人数は、派遣労働者1人以上100人以下を1単位として、1単位につき1人以上です。ここでいう専属とは、派遣先責任者の業務だけを行うという意味ではなく、他の事業所等の派遣先責任者を兼任しないことを意味します。

ただし、その事業所等で就業する派遣労働者と派遣先が雇用する労働者の合計が5人以下の場合は、選任を要しません。

なお、製造業務に派遣労働者を従事させる場合は、派遣人数に応じて、製造業務専門派遣先責任者の選任が必要となることがあります。

また、労働者派遣契約では、派遣先責任者の役職・氏名・連絡方法を定めます。形式的に担当者を選任するのではなく、関係法令や契約内容を理解し、社内の関係者や派遣会社との連絡・調整を行える担当者を選任することが重要です。

派遣先責任者の役割

派遣先責任者の役割は主に次のとおりです。

  • 労働者派遣契約の内容が守られているかの確認
  • 関係法令・派遣契約の内容の周知
  • 派遣可能期間の管理
  • 派遣先管理台帳の管理
  • 派遣社員からの苦情処理
  • 派遣先における均衡待遇の確保に関する対応
  • 安全衛生の確保に関する派遣会社との連絡・調整

労働者派遣契約の内容が守られているかの確認

派遣会社との契約内容が守られているかを確認することが役割の一つです。契約期間、業務内容、就業場所、就業時間などの就業条件について、契約内容と実際の運用状況に相違が生じていないかを確認し、相違がある場合は速やかに派遣会社と調整することが必要です。

関連コラム:派遣社員の受け入れがうまくいかないときの原因と改善ポイント

関係法令・派遣契約の内容の周知

派遣社員に適用される関係法令の規定、労働者派遣契約の内容、派遣会社から受けた通知を、指揮命令者などの関係者に周知します。

派遣可能期間の管理

派遣法で定められている事業所単位の期間制限について、抵触日や延長時の通知を管理するとともに、個人単位の期間制限についても就業期間を確認します。

関連コラム:派遣先企業が注意すべき派遣法上のNG行為とトラブル防止のポイント

派遣先管理台帳の管理

派遣先管理台帳は、派遣社員ごとの就業日、始業・終業時刻、休憩時間、従事した業務、苦情処理の状況などを記録するものです。派遣先責任者は、台帳の作成・記録・保存と、必要事項の派遣会社への通知が適切に行われるよう管理します。

派遣社員からの苦情処理

派遣社員から苦情の申出があった場合、派遣先責任者は、必要に応じて派遣会社と連携し、適切かつ迅速な処理を進める中心的な役割を担います。

労働者派遣契約には、派遣先において派遣社員から苦情の申出を受ける者(以下、苦情申出先担当者)、その処理方法、派遣会社との連携体制を定めます。苦情申出先担当者と派遣先責任者が異なる場合は、両者の役割分担と連絡経路をあらかじめ整理しておくことが重要です。

派遣先における均衡待遇の確保に関する対応

派遣先責任者は、派遣先における教育訓練の実施状況、利用できる福利厚生施設、派遣会社に提供した待遇情報、派遣社員の業務遂行状況などを把握します。

派遣会社や関係部署から確認や協力を求められた場合は、必要な情報を整理し、教育訓練の実施や福利厚生施設の利用などについて社内調整を行います。

安全衛生の確保に関する派遣会社との連絡・調整

派遣労働者の安全衛生については、派遣会社と派遣先の双方に責任があり、法令上の責任分担は事項ごとに異なります。

派遣先責任者は、自社の安全衛生担当者や派遣会社と連携し、安全衛生教育、健康診断後の就業上の措置、事故発生時の対応、労働者派遣契約で定めた安全衛生事項の実施状況などについて、必要な連絡・調整を行います。

派遣先責任者と各担当者の役割の違い

派遣先責任者は、担当する事業所等における派遣就業を一元的に管理し、契約内容の周知、派遣可能期間の管理、派遣先管理台帳の管理、苦情処理、派遣会社との連絡・調整などを担います。

一方、指揮命令者は、労働者派遣契約で定めた業務の範囲内で、派遣社員に日々の業務指示を行い、就業状況を把握する担当者です。就業状況や契約運用に問題が生じた場合は、派遣先責任者に報告し、必要な情報を共有します。苦情申出先担当者は、派遣社員からの苦情や相談を受け、内容を整理したうえで、関係者につなぐ窓口としての役割を担います。派遣会社との窓口担当者は、派遣会社との日常的な連絡や、契約・更新などに関する社内調整を行う実務上の担当者です。

同一人物が複数の役割を担う場合もあります。ただし、兼務する場合も、日々の業務指示、事業所等における派遣就業の管理、苦情の受付、派遣会社との連絡・調整を区別し、必要な情報が派遣先責任者に集約される体制を整えておくことが重要です。兼務の可否は、会社の規模だけで判断するのではなく、派遣社員の人数、配属部署や就業場所、担当者の業務量、派遣会社との連絡体制などを踏まえて検討しましょう。

関連コラム:指揮命令者の役割と実務上のポイント

派遣先責任者を選任する際の確認ポイント

派遣先責任者について、法律上必須とされる資格はありません。ただし、厚生労働省の指針では、派遣先責任者の選任に当たって、次のような内容が示されています。

  • 労働関係法令に関する知識を有する者であること
  • 人事・労務管理などについて専門的な知識、または相当期間の経験を有する者であること
  • 派遣社員の就業に係る事項に関する一定の決定、変更を行い得る権限を有する者であること

派遣先責任者を選任する際は、役職名だけを基準にするのではなく、関係法令や契約内容を理解できるか、受け入れ部署から必要な情報を集められるか、派遣会社との協議や社内調整を行える権限があるかを確認することが重要です。そのため、次のような点も確認するとよいでしょう。

  • 担当する事業所等の派遣社員の受け入れ状況を把握できるか
  • 指揮命令者や苦情申出先担当者と情報共有できるか
  • 契約内容と実際の運用とのずれを確認し、是正に向けた調整ができるか
  • 派遣会社との協議や、問題発生時の初動対応ができるか
  • 担当者が不在の場合の連絡先や代替体制が決まっているか

なお、派遣先責任者講習の受講は法律上の必須要件ではありませんが、新たに派遣先責任者を選任したときや、関係法令が改正されたときなどの機会に受講させることが望ましいとされています。

まとめ

派遣先責任者は、担当する事業所等における派遣就業を一元的に管理し、受け入れ部署と派遣会社をつなぐ役割を担います。役職や肩書だけで形式的に選任するのではなく、契約内容を理解し、就業状況を把握したうえで、必要な社内調整を行える担当者を選任することが重要です。

選任や役割分担が曖昧な場合、勤怠情報の共有、契約内容とのずれの是正、苦情対応などに時間を要し、関係者の負担が増えることがあります。派遣先責任者、指揮命令者、苦情申出先担当者、派遣会社との窓口担当者について、誰が何を担うのかを事前に整理しておきましょう。

派遣先責任者の選任や社内の役割分担を自社だけで整理しにくい場合は、派遣会社に確認する事項や社内で決める事項を、派遣先の立場で整理する外部の相談窓口を活用する方法もあります。

執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日