はじめに

  • 新たに受け入れた派遣社員について、受け入れ部署から『業務とのミスマッチを感じる』との声が上がっている
  • 先月から就業を開始した派遣社員について、本人が次回の契約更新を希望していないと、派遣会社から連絡があった
  • 派遣社員が3人続けて契約更新を希望せず、初回契約で終了している。原因を確認し、受け入れ体制を改善するよう上長から指示を受けた

こうした課題は、派遣社員本人のスキルや派遣会社の対応だけが原因とは限りません。派遣先企業(以下、派遣先)の受け入れ体制、指揮命令系統、業務内容や期待水準に関する認識の相違が影響している場合もあります。

本記事では、派遣先の立場から、派遣社員の受け入れがうまくいかない原因と改善するためのポイントについて解説します。

関連する相談例

  • 派遣社員に依頼する業務内容や期待値が、事前に関係者の間で十分に共有されていない
  • 就業が始まったにもかかわらず、受け入れ体制が整っていない
  • 指揮命令者を定めているが、実際の指示系統が統一されていない
  • 受け入れ部署が「派遣社員は即戦力だから大丈夫」と過信して、必要な教育やOJTが不足している
  • 業務以外の職場環境や社内ルールについて説明が不足している
  • 派遣会社との情報共有が不足している

派遣社員が業務に必要な経験やスキルを有していても、派遣先独自の業務フロー、使用するシステム、指揮命令系統、社内ルールまで事前に把握しているとは限りません。

「実務経験者だから説明しなくても大丈夫だろう」「ベテランに細かな指示は不要だろう」と説明を省略すると、派遣社員本人には、説明や指示がないまま対応を求められたと受け止められ、不安や認識の相違につながることがあります。

関連コラム:派遣会社に依頼する前に整理したい業務内容・必要スキル・勤務条件

ポイント① 就業初日の受け入れ準備を整える

派遣社員の受け入れでは、就業初日の印象がその後の定着に影響することがあります。

初日を迎えるにあたり、社内で確認しておきたい最低限の内容は次のとおりです。

  • 就業初日の集合場所および出社時間
  • 受け入れ担当者およびOJT担当者
  • 座席やPC・アカウントなどの社内インフラの状況
  • 勤怠管理の方法
  • 休憩時間の過ごし方や社内ルール
  • 担当業務を任せるまでのタイムスケジュール
  • 困ったときの相談先(相談内容ごと)

これらが準備不足や曖昧な状態で就業初日を迎えた場合、「自分は歓迎されていないのでは」「ここで働いて大丈夫だろうか」と派遣社員本人が不安を感じる可能性があるため注意しましょう。

調達の遅れなどにより、PCや備品の準備が就業初日に間に合わない場合もあります。その場合は、事前に派遣会社を通じて本人へ事情を伝え、必要に応じて就業開始日の変更などを協議するとよいでしょう。同じ準備不足でも、事前に事情を伝えるか、就業初日になって判明するかによって、派遣社員本人の受け止め方が変わります。

ポイント② 担当業務を明確にする

派遣社員に依頼する業務は、労働者派遣契約で定めた業務内容の範囲内である必要があります。業務を追加・変更する場合は、派遣会社と協議し、契約内容の変更が必要か確認したうえで、派遣社員本人にも説明することが重要です。

  • ついでにこの業務もお願いします。
  • 手が空いているようだから、手伝ってください。
  • 慣例上、この業務は派遣社員が担当することになっているから。

このような依頼が重なると、契約で想定していない業務までその都度依頼する状態になり、派遣社員本人が実際の業務範囲に疑問や戸惑いを感じたり、就業意欲が低下したりする可能性があります。当初想定していた業務と実際に依頼している業務の状況について、定期的に確認しておくことが大切です。

  • 依頼する業務の詳細
  • 自身で判断して進めてよい範囲と確認が必要な範囲
  • 業務の優先順位のつけ方
  • 不明点が発生した際の確認先
  • 対応させない業務

関連コラム:派遣社員に任せやすい業務・慎重に判断したい業務の見極め方

ポイント③ 指揮命令系統や相談先を明確にする

派遣社員にとって、誰の指示を優先すべきか曖昧な状態は大きな負担になりえます。

たとえば、指揮命令者と受け入れ部署の責任者から異なる優先順位を示された場合、派遣社員はどちらの指示を優先すべきか判断できなくなります。派遣社員本人へ指揮命令系統を伝えるだけでなく、指示を出す可能性のある社員間でも、誰が最終的に業務の優先順位を決めるのか、共通認識を持つことが重要です。

関連コラム:派遣社員への業務指示で確認したい契約範囲と指揮命令体制

ポイント④ 派遣会社との情報共有を欠かさずに行う

派遣社員の受け入れを安定させるためには、派遣会社との情報共有が欠かせません。受け入れ後に業務上の違和感や懸念が生じた場合は、早い段階で派遣会社に共有することが大切です。

派遣会社が就業開始後に定期的なフォローを行う場合もありますが、派遣先側でも早い段階から就業状況を把握し、必要な情報を共有することが重要です。派遣会社からの連絡を待つだけでなく、業務上の違和感や懸念が生じた段階で、事実関係と受け入れ部署が行った対応を整理して伝えましょう。

また、派遣会社に状況を共有する場合は主観的な表現ではなく、状況をできるだけ具体的に伝えるようにしましょう。派遣会社に正確に状況を伝えることで、派遣社員本人への適切なフォローや今後の改善につながりやすくなります。

なお、体調や家庭事情など、派遣社員本人の個人的な事情に関わる情報については、まず本人から派遣会社に伝えてもらう方法を検討します。派遣先から共有する必要がある場合は、その必要性と範囲を整理し、原則として本人の同意を得たうえで、必要最小限の情報に留めることが望ましいといえます。

  • どの業務でつまずいているか
  • いつからその状態が見受けられるか
  • 受け入れ部署がどのようなフォローをしているか
  • 派遣社員本人からの相談の有無と、派遣会社に共有する必要性・範囲(原則として本人の同意を確認)
  • 派遣先として今後どのような対応を希望するか

関連コラム:派遣会社とのやりとりで認識の相違を防ぐポイント

受け入れ体制を改善するためのチェックリスト

派遣社員の受け入れがうまくいかない場合は、次の点を確認するようにしましょう。派遣社員の定着や働きぶりは、本人の能力や置かれている状況だけで決まるものではなく、派遣先の準備や関わり方にも左右されます。

  • 就業初日を迎えるための準備は整っているか
  • 業務内容や期待値を関係者の間で共有しているか
  • 派遣契約上の業務内容と実際の業務に相違はないか
  • 受け入れ部署が「派遣社員は即戦力だから大丈夫」と過信していないか
  • 指揮命令者や相談先は明確になっているか
  • 派遣会社との情報共有は適切にできているか
  • トラブルが起きたときに記録や経緯を残しているか

まとめ

派遣社員の受け入れがうまくいかない場合、原因を派遣会社や派遣社員本人だけに求めるのではなく、派遣先の受け入れ体制を見直すことも重要です。

当事務所では、派遣先の立場から、派遣会社に確認すべき事項、社内で見直すべき事項、今後の対応方針を整理しています。「派遣社員の受け入れがうまくいかない」「受け入れ部署の対応が適切か自信がない」「派遣会社との情報共有に不安がある」といった場合は、状況がまとまっていない段階でもご相談いただけます。

執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日