はじめに
派遣社員の受け入れを検討する際、派遣会社に対して、「事務スタッフを一名依頼したい」「決算業務の経験者を探している」と依頼をするだけでは、依頼内容として十分とはいえない場合があります。派遣会社は、派遣先企業(以下、派遣先)から提示された業務内容・必要スキル・勤務条件をもとに、登録者や募集への応募者の中から就業条件に合う人材を検討し、派遣就業に向けた調整を行います。
そのため、依頼内容が抽象的であればあるほど、就業開始後に次のようなミスマッチが発生する可能性が高まります。
- 想定していた業務スキルを派遣社員が有していないため、予定していた業務を依頼できない
- 派遣会社への依頼から就業開始までは順調に進んだが、受け入れ後に受け入れ部署が派遣社員に何を依頼してよいか戸惑っている
- 業務内容が十分に整理されないまま、派遣契約を締結したため、実際の運用と契約上の業務範囲にずれが生じた
- 残業は発生しない想定で依頼したが、受け入れ後に、月10時間前後の残業が見込まれることが判明した
派遣会社に自社の依頼内容を正確に伝え、条件に合う人材を検討してもらうためには、依頼前の要件整理が欠かせません。派遣会社との連絡担当者と受け入れ部署との間で依頼する業務、業務を遂行するために必要なスキル、勤務条件、条件の優先順位について共通認識を持つことが重要です。
本記事では、派遣会社に依頼する前に派遣先が整理しておきたい業務内容・必要スキル・勤務条件と、人材に関する希望の伝え方について解説します。
関連する相談例:派遣会社とのやりとりを部署任せにせず、一元的に担う担当者を配置すべきか
関連コラム:派遣会社との窓口担当者の役割と運用のポイント
派遣会社に依頼する前の整理が重要な理由
派遣会社は、派遣先から提示された業務内容、必要な知識・経験、勤務条件などをもとに、就業条件に合う人材を検討します。依頼内容が曖昧なままでは、派遣会社が条件に合う人材を検討しにくくなるだけでなく、派遣会社と受け入れ部署との間で、業務範囲や条件の優先順位に認識のずれが生じることがあります。
また、同じ「一般事務」職であっても、企業によって想定する業務は異なることがあります。書類作成が中心の場合もあれば、代表電話、受発注処理、請求書発行、Excelを使用した集計・加工などを含む場合もあります。職種名だけでなく、実際に依頼する業務、必要なスキル、譲れない条件と調整可能な条件を整理して伝えることが、受け入れ後のミスマッチの防止につながります。
関連コラム:派遣会社の選び方と依頼する前に確認したいポイント
整理すべきこと① 業務内容を明確にする
最初に整理したいのは、派遣社員に依頼する業務内容です。
「一般事務」「営業アシスタント」「部内庶務」といった抽象的な表現だけでは、想定する業務範囲が人によって異なりやすく、関係者間で認識のずれが生じる可能性があります。そのため、派遣会社に依頼する前に、関係者間で業務内容を整理しておくとよいでしょう。
整理が難しい場合は、日次・週次・月次・四半期で発生する定期業務を洗い出し、そこに不定期に発生する業務を加える形で整理すると、イメージしやすくなります。
- メイン業務
- 日次・週次・月次・四半期で発生する定期業務
- 不定期に発生する業務
- 電話対応・来客対応の有無(1日当たりの想定件数を含む)
- 社外で対応する業務の有無(銀行・郵便局での手続きなど)
- クレーム対応の有無
- 業務の繁閑(月末・月初、四半期末、年度末など)
- 使用するシステムやツール(マニュアルの有無、指導方法を含む)
- 個人情報・機密情報の取り扱いの有無
- 金銭の取り扱いの有無
- 前任者からの引継ぎの有無・期間
- 受け入れ部署の概要(全体人数や同じ業務に従事する人数など)
関連コラム:派遣社員に任せやすい業務・慎重に判断したい業務の見極め方
整理すべきこと② 必要スキルを必須要件と歓迎要件に分ける
次に、業務遂行に必要なスキルを整理します。就業開始時点から業務を遂行するうえで欠かせないものを必須要件、備わっていれば業務の幅が広がるものの、就業開始後の習得や受け入れ部署での指導によって補えるものを歓迎要件として分けると整理しやすくなります。
派遣会社は、登録者や応募者の経験、スキル、就業希望などを踏まえて、依頼条件に合う人材を検討します。必須要件を増やしすぎると、条件に合う人材の確保が難しくなり、就業開始までに時間を要することがあります。そのため、業務上欠かせない要件に絞り、優先順位を明確にして派遣会社に伝えましょう。
たとえば、経理業務で派遣社員の受け入れを検討する場合でも、求める経験は実際に依頼する業務に応じて設定する必要があります。四半期決算の業務を依頼する予定がないにもかかわらず、将来的に役立つ可能性があるという理由だけで、決算業務の経験を必須要件とするのは適切とはいえません。
また、自社で使用している会計ソフトの経験を必須要件とすると、そのソフトの使用経験者に候補が限定され、人材の確保が難しくなる可能性があります。マニュアルや指導体制を用意できる場合は、特定の製品名ではなく、市販の会計ソフトを使用した経験を必須要件とすることで、候補となる人材の幅が広がります。
一方で、人材確保を優先して必須要件を緩和しすぎると、就業開始後のミスマッチにつながる可能性があるため、受け入れ体制などを加味して判断することが必要です。
必須スキルの例
- PCを使用した文字や数値入力を、日常的に行った経験があること
- Wordでの文書作成、Excelでの入力・SUM・AVERAGEなどの基礎関数が使用できること
- 業務での電話対応の経験があること
- 業務でのメール対応の経験があること
歓迎スキルの例
- VLOOKUPなどの関数や、ピボットテーブルを使用できること
- 受発注処理の経験があること
- 納期調整など、取引先との調整を必要とする業務の経験があること
- 日商簿記2級程度の知識または経理実務の経験があること
- 業務上の英文メールを読解・作成できること
整理すべきこと③ 勤務条件を明確にする
派遣社員を受け入れる場合は、勤務条件についても事前に整理しておく必要があります。
特に就業時間や就業日数、時間外労働の有無については、候補者のマッチングに大きく影響を及ぼすため、明確にしておきましょう。会社独自の休日や祝日出勤日がある場合は、年間カレンダーを派遣会社と共有しておくことで、勤務日の認識違いを防ぎやすくなります。
整理しておきたい勤務条件
- 就業開始希望日(前倒し・後ろ倒しの可否を含む)
- 派遣受け入れの予定期間(長期・中期・短期の区分。産休・育休などの代替の場合は、復職予定日を含む)
- 労働者派遣契約の期間(初回契約期間と更新時の期間の目安)
- 勤務曜日・勤務日数
- 休日(ゴールデンウィーク、夏季休暇、年末年始などを含む)
- 就業時間
- 休憩時間
- 残業の有無(残業がある場合は、1か月当たりの想定時間を含む)
- 休日出勤の有無
- 在宅勤務の可否(可能な日数と開始時期の目安を含む)
- 就業場所
- 服装(制服の有無、派遣社員にも着用を求めるかどうか)
整理すべきこと④ 人物属性ではなく、業務上必要な行動・対応を伝える
派遣会社に人材に関する希望を伝える際は、年齢・性別などにより派遣労働者を限定したり、学歴・家族構成などの業務と直接関係しない属性を条件とするのではなく、業務内容や職場環境を踏まえ、業務上必要な経験・スキル、行動・対応を伝えることが重要です。
労働者派遣法上、紹介予定派遣を除き、派遣先には、就業開始前の面接、履歴書の提出要請、若年者への限定など、派遣労働者を特定することを目的とする行為を行わないよう努めることが求められています。希望条件は、人物属性ではなく、業務遂行に必要な経験・スキル、職場環境に応じて求められる行動・対応、勤務条件への対応可否として整理しましょう。
望ましい伝え方
- 電話対応が中心となるため、相手の話を確認しながら、要点を整理して対応できること
- 細かな数字を扱うため、正確性を保ちながら反復業務を進められること
- 複数の部署や社外との連絡があるため、必要な情報を整理し、関係者に共有できること
- 業務の優先順位が変わることがあるため、指示を確認しながら対応順を組み替えられること
- フリーアドレスを導入しているため、周囲で会話や電話が発生する環境でも、正確性を保って業務を進める必要がある
避けるべき伝え方
- 年齢は20~30代を希望
- 学歴は大卒以上を希望
- 転職回数は3回以内を希望
- 性別は女性を希望
- 未婚を希望
- 居住地や通勤時間を条件にする(就業場所、始業時刻、出社頻度への対応可否で確認する)
関連コラム:派遣先企業が注意すべき派遣法上のNG行為とトラブル防止のポイント
派遣会社に依頼する前のチェックリスト
派遣会社に依頼する前に、次の内容を整理しておくとよいでしょう。
業務内容
- メイン業務
- 定期業務・不定期業務
- 電話・来客・クレーム対応
- 社外対応
- 機密情報・金銭の取り扱い
- 使用するシステム、繁忙時期、引継ぎの有無・期間
必要スキル
- 必須スキル
- 歓迎スキル
- 指導・マニュアルの有無
勤務条件
- 就業開始希望日、受け入れ予定期間
- 労働者派遣契約の期間(初回契約期間・更新時の期間の目安)
- 勤務日、休日、就業時間、休憩時間
- 残業・休日出勤の有無
- 在宅勤務、就業場所、服装
依頼・運用体制
- 派遣会社との窓口となる社内担当者
- 受け入れ部署の指揮命令者
- 派遣労働者を事前に特定・選別する条件になっていないか
- トラブル発生時の連絡方法
まとめ
派遣会社に依頼する前の整理が不十分な場合、派遣会社との認識の相違や受け入れ開始後のミスマッチにつながることがあります。派遣会社との連絡担当者と受け入れ部署の関係者の間で、業務内容・必要スキル・勤務条件を確認し、譲れない条件と調整可能な条件を整理しておくことが重要です。
また、依頼条件を伝える際は、年齢や性別などで派遣労働者を特定するのではなく、業務遂行に必要な経験・スキル、職場環境に応じて求められる行動・対応、勤務条件への対応可否として整理することが重要です。
派遣会社への依頼内容や条件の優先順位を自社だけで整理しにくい場合は、派遣会社に伝える前に、派遣先の立場で確認事項や判断材料を整理する外部の相談窓口を活用する方法もあります。
執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日
.png)