はじめに
※個別の契約内容や就業状況によって、適切な対応は異なります。実際に交代や契約終了を検討する際は、労働者派遣契約や派遣会社との取り決めを確認し、必要に応じて専門家にご相談ください。
※本記事では、派遣先が、現在就業している派遣社員に代わる人員の派遣について派遣会社に相談することを「交代」と表現します。派遣社員の配置や雇用上の判断は、雇用主である派遣会社が行います。
派遣社員の業務遂行や勤務状況に課題が生じた場合、派遣先企業(以下、派遣先)は派遣社員の交代を検討することがあります。その際は、受け入れ部署の印象だけで交代を決めたり、派遣社員本人に直接伝えたりするのではなく、業務上の支障やこれまでの対応を整理したうえで、派遣会社と相談して進めることが重要です。
また、課題の原因が派遣社員本人だけにあるとは限りません。業務内容、指示の出し方、教育体制、求めるスキルの設定など、派遣先側の受け入れ体制を見直すことで改善できる場合もあります。
本記事では、派遣先が就業中の派遣社員の交代を検討する際の判断基準、派遣会社への相談方法、交代前に確認したい事項について解説します。
関連する相談例
派遣社員の交代は派遣会社に相談して進める
派遣先は、派遣会社との労働者派遣契約に基づき、派遣社員を受け入れます。交代を検討する場合も、派遣先が一方的に決定したり、派遣社員本人に直接「交代してほしい」と伝えたりするのではなく、まず派遣会社に相談します。
相談する際は、次のような内容を客観的な事実として整理します。
- 契約で定めた業務内容と実際の対応状況
- 必要なスキルや経験との相違
- 業務や職場に生じている具体的な影響
- これまでに行った説明やフォローと、その後の改善状況
- 今後、必要と考えられる対応
また、「合わない」「態度がよくない」といった抽象的な評価だけでは、派遣会社も事実確認や対応方針の検討が難しくなる場合があるため、発生した事実と業務への影響を分けて伝えることが重要です。
たとえば、英語と日本語の同時通訳業務を担当するために派遣された社員について、必要な語学力が不足し、契約で定めた通訳業務に継続的な支障が生じている場合は、交代を含む対応について、派遣会社に相談することが考えられます。その際は、単に「能力が足りない」と評価するのではなく、対応できなかった業務、発生した影響、必要な支援、短期間で改善できる可能性などを整理して伝えることが重要です。
なお、後任者を受け入れる場合も、紹介予定派遣を除き、派遣先が事前面接を行ったり、候補者の履歴書の提出を求めたりするなど、派遣社員を特定することを目的とする行為は、原則として行うことができません。
関連コラム:派遣先企業が注意すべき派遣法上のNG行為とトラブル防止のポイント
勤務態度や職場への影響を理由に派遣社員の交代を相談できるか
契約で定めた業務を遂行できていない場合は、具体的な事実と業務への影響を整理したうえで、交代を含む対応を派遣会社に相談することが考えられます。判断が難しいのは、必要なスキルは満たしているものの、勤務態度や職場内での言動、関係者との業務連携に課題がある場合です。
「挨拶が少ない」「応対の仕方が相手によって異なる」「指示を受けた際の反応にばらつきがある」といった事情は、受け手によって評価が異なることがあります。そのため、それだけで交代を求めるのではなく、業務上どのような支障が生じているかを確認する必要があります。
ハラスメントや安全衛生上の問題が疑われる場合は、交代の判断を先行させるのではなく、被害拡大の防止、事実確認、相談対応を優先します。それ以外の場合は、派遣会社が事実確認や必要な指導を行い、派遣先でも指示方法や受け入れ体制を見直したうえで、改善状況を確認することが考えられます。
一方で、「職場内で大きな声を出す」「特定の社員に対して不適切な発言をしている」「複数の社員から、業務上の連携が難しいとの相談が入っている」など、業務や職場環境に具体的な支障が生じている場合は、速やかに派遣会社に相談し、対応策を検討することが望ましいです。業務に直接的な影響が確認できない場合でも、職場環境に具体的な悪影響が生じているときは、事実関係を整理して速やかに派遣会社に相談し、交代を含む対応を検討します。
なお、派遣社員が苦情を申し出たことや、ハラスメントについて相談したことを理由として、交代を求めるなどの不利益な取扱いを行うことはできません。交代を検討する場合は、苦情・相談の内容とは切り分け、業務上の支障を示す客観的な事実に基づいて判断します。
関連コラム:派遣契約を更新するかどうかの判断基準と伝え方
派遣会社が派遣社員の交代に慎重になる理由
派遣会社が交代を直ちに決定できない背景には、派遣社員との雇用契約、次の就業先の調整、後任者の確保などがあります。交代の理由や時期、労働者派遣契約の内容によっては、派遣会社側で配置変更や雇用上の対応を検討する必要があります。
また、派遣社員の交代と労働者派遣契約の中途解除は、必ずしも同じではありません。交代の相談が契約内容の変更や中途解除に当たるかは、契約条項と具体的な事情を確認し、派遣会社と協議します。中途解除に当たる場合は、派遣会社への事前の申入れや、新たな就業機会の確保に向けた協力など、派遣先指針に沿った対応も確認する必要があります。
交代・改善対応・増員を比較して判断する
交代によって課題が解消する可能性がある一方、後任者の確保に時間を要し、引継ぎや一時的な業務停滞が生じることもあります。特に専門性の高い業務では、後任者の確保時期、必要な引継ぎ期間、現在の派遣社員への追加フォローによって改善できる余地などを比較し、派遣会社と対応方針を検討します。
中小企業では、大企業のように業務が細分化されておらず、一人の社員が広い範囲の業務を担当している場合があります。前任者のスキルが高く、本来であれば複数人で行う業務を一人で担当していたなど、派遣社員を受け入れた後に業務範囲の実態が明らかになることもあります。
その場合は、派遣社員の交代だけでなく、業務全体を洗い出し、依頼する業務範囲を見直すことが重要です。業務内容を変更する場合は、派遣契約の内容や必要なスキルを整理したうえで、現在の派遣社員への追加フォロー、対応可能な派遣社員への交代、増員などを派遣会社と検討します。
また、育成を前提とする無期雇用派遣サービスなどを利用している場合は、就業開始直後の習熟度だけで判断せず、事前に共有した育成方針や想定する習熟期間と照らして確認することも大切です。
関連コラム:派遣会社に依頼する前に整理したい業務内容・必要スキル・勤務条件
派遣社員の交代を判断する際のポイント
派遣社員の交代を判断する際の主なポイントは次のとおりです。
- 業務上の支障を示す客観的な事実があるか
- 契約で定めた業務内容や必要なスキルとの相違があるか
- 派遣先の指示方法、教育体制、職場環境に改善の余地はないか
- 必要な事実確認・改善対応を派遣会社と検討したか
- 苦情の申出などを理由とする不利益な取扱いになっていないか
- 業務内容の見直し、追加フォロー、増員など、交代以外の選択肢はないか
- 契約期間、後任者の確保、引継ぎに必要な期間を考慮しているか
- 交代の判断が、当初の受け入れ目的と合っているか
まとめ
派遣社員の交代は、受け入れ部署の印象や相性だけで判断せず、契約上の業務内容、具体的な支障、これまでの説明やフォロー、派遣先の改善余地を整理して検討します。
交代を検討する場合は、派遣社員本人に直接、交代や派遣就業の終了を伝えるのではなく、派遣会社と事前に対応方針や役割分担を確認します。派遣社員の配置や雇用上の説明は、雇用主である派遣会社が行います。派遣先は、業務上の支障や契約内容との相違を、具体的な事実として派遣会社に共有する必要があります。
ただし、当初から交代を前提とせず、事実確認、派遣会社による改善対応、業務内容や受け入れ体制の見直し、追加フォロー、交代の要否を段階的に検討することが重要です。
執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日
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