はじめに
※本記事では、派遣先企業(以下、派遣先)と派遣会社が締結する労働者派遣契約を「派遣契約」と表記し、契約期間満了時の更新判断を取り扱います。契約期間途中の解除は対象としていません。
派遣契約の更新時期を迎え、「更新するか迷っている」「現契約で終了したいが、派遣会社への伝え方が分からない」「方針を伝えた後のトラブルが不安だ」と感じることはないでしょうか。
派遣契約の更新判断は、契約期間ごとに派遣先と派遣会社が行う重要な判断です。更新可否に迷う場合、判断基準や伝達時期が曖昧なまま対応を進めると、派遣会社や派遣社員本人とのトラブルにつながることがあります。
本記事では、派遣契約の更新可否を判断する基準と、更新しない場合の派遣会社への伝え方について解説します。
関連する相談例
更新判断の場面で起きるトラブル事例
実務上は、次のようなトラブルが発生する場合があります。
- 更新しない意向を派遣会社に伝えたところ、派遣先と派遣会社の認識に相違が生じた
- 更新しない方針が派遣社員本人に伝わった後、就業意欲の低下や職場内の連携への影響が生じた
- 契約満了前の年次有給休暇の取得予定を踏まえた引継ぎ期間を確保できず、後任者への引継ぎが難しくなった
このようなトラブルは、更新判断の基準、伝達時期、関係者の役割分担が曖昧なまま対応を進めた場合に起こりやすくなります。
更新判断は、可否を決めて派遣会社に伝えるだけでは十分ではありません。派遣会社との判断基準の共有、派遣社員本人への伝え方、後任者の手配、業務の引継ぎ期間まで整理する必要があります。
関連コラム:派遣社員とのトラブルを防ぐために派遣先企業ができる実務対応
派遣契約を更新するかどうかの判断基準を明確にする
派遣契約の更新判断については、受け入れ部署の担当者の印象だけで決めるのではなく、一定の判断基準を設けることが重要です。
たとえば、次のような基準を設けることで判断しやすくなります。
業務の習熟度・今後の見通し
- 就業開始から経過した期間と業務への対応状況は想定内の進捗であるか
- 次回契約期間に予定している業務を、必要なサポートがあれば遂行できる見込みがあるか
勤怠ルールの遵守状況・業務上の連携
- 遅刻・欠勤時の連絡ルールが守られているか
- 指揮命令者やOJT担当者との業務上の連携に支障がないか
依頼している業務の見通し
- 次回の契約期間中も、継続して依頼できる業務量が見込まれるか
- 業務の追加・変更は必要であるか
派遣先の受け入れ体制
- 業務説明やOJT、確認先は十分に整っていたか
- 業務上必要なフォローや確認の機会を設けていたか
こうした観点から整理することにより「なんとなく更新する」「これまでどおりでよいだろう」といった曖昧な判断を避けやすくなります。特に業務の習熟度については、就業期間や当初想定したスキル水準を踏まえて、客観的に確認することが重要です。併せて、派遣単価や予算とのバランス、今後の業務量も確認しましょう。
受け入れ体制に課題がある場合は、別の派遣社員に交代しても、同じ問題が繰り返される可能性があります。更新可否は派遣社員本人だけでなく、同一業務を担当する社員の就業開始時の状況や、業務説明、OJT、確認体制にも目を向けて判断しましょう。
関連コラム:派遣社員の交代を検討する際の判断基準と進め方
派遣契約を更新しない場合の伝え方を整理する
更新しないと判断した場合は、判断理由と伝達手順を整理したうえで、まず派遣会社に伝えます。
その際、個人的な印象や曖昧な表現を用いると、派遣会社や派遣社員本人に意図と異なる形で伝わるおそれがあるため、次の点を準備しておきましょう。
- 判断理由を、確認できる事実と業務への影響に基づいて整理する
- 方針が確定しているか、再検討の余地があるかを明確にする
- 派遣社員本人への説明内容と時期を、派遣会社と事前に合わせる
業務スキルを理由とする場合、「もう少しスキルがあれば」「社内の状況が許せば、更新したかった」といった婉曲な表現は、再検討の余地があると受け取られることがあります。方針が確定している場合は、判断内容と理由を明確に伝えましょう。派遣会社の見解も踏まえて判断したい場合は、結論を出す前に相談することが大切です。
また、判断理由を説明する際は、処理件数、エラーの発生状況、フォローの実施内容、業務量の見通しなど、確認できる事実を添えるようにしましょう。
たとえば、次のような説明が考えられます。
- 同一業務について設定している標準的な処理件数と比べて、処理件数が継続して半分以下となっている
- 同一業務の標準的なエラー件数と比べて、ミスが多い状態が継続しており、2週間ほど社員による業務フォローの頻度を増やしたが、改善の見込みが立たない
- 任せている業務が受注減により減少する見込みとなり、現行の契約条件を維持するのは困難になった
数値を用いる場合は、比較する期間、業務の難易度、担当範囲、教育やフォローの条件が同程度であるかも確認し、単一の数値だけで判断しないことが重要です。
「職場になじんでいない」「相性が合わない」といった抽象的な印象は避け、報告・連絡が行われなかった場面、指示確認の状況、フォロー後の変化、業務への影響など、確認できる事実に置き換えて伝えます。
なお、派遣社員本人への説明は、雇用主である派遣会社が行うことを基本とし、派遣先から個別に伝える場合も、内容と時期を事前にすり合わせておきましょう。説明後の就業への影響や必要な対応についても、あわせて確認しておくことが重要です。
派遣会社との認識を定期的に合わせる
派遣先と派遣会社の認識がずれたまま更新時期を迎えると、判断理由や派遣社員本人への伝達時期をめぐって混乱が生じます。
就業開始直後、業務内容の変更時、更新判断前など、あらかじめ定めた時期に就業状況を共有しましょう。あわせて、派遣会社による状況確認の頻度・方法と、更新可否の回答期限も確認しておくと安心です。
更新可否の回答期限については、たとえば現契約満了日の45日前・60日前など、派遣会社との取決めにより独自の期限が設けられていることがあります。契約書や運用ルールを確認し、社内判断の期限を逆算しておくとよいでしょう。
関連コラム:派遣会社との窓口担当者の役割と運用のポイント
更新可否のチェックリスト
派遣契約の更新可否を判断し、派遣会社に伝える際は、次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 派遣契約を更新する場合、現在の課題や今後の期待値を派遣会社と共有できているか
- 派遣契約を更新しない場合、その理由を客観的な事実に基づいて説明できるか
- 派遣社員本人への伝え方について、派遣会社と認識は揃っているか
- 後任者が必要な場合、派遣会社からの紹介時期や引継ぎ期間を確認できているか
- 更新しないことが決定した後も、契約満了まで適切な就業環境と指揮命令体制を維持できるか
- 現契約の満了日、更新回答期限、契約上の手続を確認しているか
- 今回の対応が契約満了による終了か、契約期間途中の解除かを区別できているか
まとめ
派遣契約の更新判断をめぐるトラブルを防ぐには、判断基準を明確にし、派遣会社と就業状況、伝達時期、役割分担を共有しておくことが重要です。
「この判断は妥当か」「派遣会社への伝え方に不安がある」「更新判断の場面で問題が起きるのを防ぎたい」など、状況が固まっていない段階でもご相談いただけます。
※本記事は、契約期間満了時に派遣契約を更新しない場合を中心に、一般的な実務上の留意点を整理したものです。契約期間途中の解除については、「派遣先が講ずべき措置に関する指針」に基づき、事前の申入れ、就業機会の確保、損害賠償などの対応が必要となる場合があります。実際の判断にあたっては、個別契約や派遣会社との取り決めをご確認ください。
執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日
.png)