はじめに

派遣社員を受け入れていると、契約更新時などに派遣会社から派遣料金(派遣単価)の改定を相談されることがあります。

派遣先企業(以下、派遣先)にとってはコスト増となるため、提示された金額をどのように判断すべきか迷う場面が出てきます。派遣料金の改定には、人材市場の賃金水準、人材確保の難しさ、社会保険料などの負担、派遣社員の待遇改善、業務内容や責任範囲の変化など、複数の要因が関係します。

派遣先には、派遣元が派遣労働者の公正な待遇を確保できるよう、派遣料金の額について配慮する義務がありますが、派遣料金と派遣社員の賃金は同じものではなく、値上げ分の全額が本人の賃金に反映されるとは限りません。

提示された金額をそのまま受け入れるか、金額や適用時期について協議するかは、改定理由、本人の待遇への反映方針、業務内容・責任範囲、人材市場の状況、継続受け入れの必要性などを確認したうえで判断するとよいでしょう。

本記事では、派遣料金の値上げ交渉を受けたときに、派遣先企業が確認・整理しておきたいポイントと、派遣会社への伝え方について解説します。

なお、2026年10月1日から適用される改正派遣元指針では、派遣料金が引き上げられた場合、派遣元事業主は、可能な限り、当該派遣に係る派遣労働者の賃金を引き上げるよう努めることとされています。

派遣先としては、改定の目的とともに、本人の賃金・待遇へどのように反映する予定であるかを確認するとよいでしょう。賃金への反映だけでなく、社会保険料などの負担増も含まれている場合は、改定理由と、可能な範囲でその算定根拠を確認したうえで判断することが重要です。

参考:労働者派遣法施行規則/派遣元指針/派遣先指針の主な改正事項

派遣料金の値上げが提案されやすいタイミングと背景

派遣料金の改定は、労働者派遣契約の更新時に相談されることが多い一方、業務内容や人材市場の状況が変化した場合は、契約期間中に相談されることもあります。

改定が提案されやすい場面として、次のような例が挙げられます。

  • 契約更新や年度替わりの時期
  • 長期就業により、業務の習熟度が高まり、担当範囲が広がった場合
  • 担当業務や責任範囲が契約当初から変化した場合
  • 派遣社員本人から派遣会社へ、賃金・待遇の見直しに関する相談があった場合
  • 同職種・同地域の賃金水準が上昇した場合
  • 最低賃金、社会保険料、採用費などの負担が増加した場合

派遣料金の改定を相談されてから、慌てて判断材料を集めるのではなく、日頃から業務の遂行状況、担当業務の変化、契約内容などを整理しておくと、改定の妥当性を判断しやすくなります。

なお、派遣料金の改定は一度限りとは限りません。人材市場の状況や派遣会社が負担する費用が変化すれば、以前に改定していても、再度相談されることがあります。改定の都度、理由と根拠を確認することが重要です。

派遣料金の改定を受け入れる場合に考えられる効果

改定分が派遣社員の賃金などの待遇改善に反映される場合は、本人の継続就業につながる可能性があります。特に長期就業により業務の習熟度が高まり、担当する役割が広がっている場合は、派遣料金の改定を検討する合理性があるケースもあります。

また、現在の派遣社員が継続して就業することで、交代に伴う引継ぎや教育、業務習得までの負担を避けられる場合があります。改定額だけでなく、交代した場合の時間的・人的な負担も含めて比較するとよいでしょう。

ただし、派遣料金を引き上げれば、必ず継続就業や意欲向上につながるわけではありません。改定の目的と、本人の賃金・待遇への反映方針を確認したうえで判断することが重要です。

関連コラム:派遣社員の交代を検討する際の進め方と注意点

派遣料金の値上げに応じない場合の派遣会社への伝え方

提示された改定額をそのまま受け入れなければならないわけではありません。ただし、業務内容や責任範囲に変化がない場合でも、人材市場の賃金水準、社会保険料などの負担、派遣労働者の待遇確保に必要な額が変化していることがあります。

値上げに応じない場合は、単に「受け入れられない」と伝えるのではなく、判断理由、検討可能な条件、再度協議できる時期などを具体的に示すことで、今後の調整を進めやすくなります。

  • 改定理由は理解しましたが、現時点では提示額での変更は難しい状況です。改定幅または適用時期について、調整の余地があるか協議させていただきたいと考えています。
  • 現在の予算では直ちに対応できないため、次回の契約更新時に改めて検討したいと考えています。判断に必要な資料をご提示いただけますでしょうか。
  • 業務内容や責任範囲の変更を理由とする場合は、現在の業務実態と労働者派遣契約上の業務内容・責任範囲を確認したうえで、協議させていただきたいと考えています。

派遣先が社内で整理しておきたいポイント

派遣料金の改定に応じるかどうかは、客観的な材料をもとに検討することが重要です。

主な確認ポイントは次のとおりです。

  • 改定理由と算定根拠は明確か
  • 改定額と適用開始時期は明確か
  • 改定分を本人の賃金・待遇にどのように反映する予定か、派遣会社に確認したか
  • 現在の業務内容、責任範囲、求める技能水準は契約当初から変化しているか
  • 改定額は、同職種・同地域の人材市場の水準と大きく乖離していないか
  • 継続受け入れの必要性と、交代時の引継ぎ・教育コストを比較したか
  • 自社の予算、費用対効果、再協議の時期・条件を整理したか

改定理由ごとに派遣会社へ確認したい事項は、次のとおりです。

関連する相談例:派遣会社から派遣料金の値上げを提示されたが、妥当性を判断できない

派遣料金の値上げに関するよくあるご質問

Q. 派遣料金の値上げは必ず受け入れなければならないですか

派遣会社から改定額を提示されたことだけで、その金額を受け入れなければならないわけではありません。

ただし、派遣先には、派遣元が派遣労働者の公正な待遇を確保できるよう、派遣料金の額について配慮する義務があります。改定理由や必要性を確認せず交渉自体を拒むのではなく、根拠を確認し、受け入れの可否、金額、適用時期などを協議することが重要です。

Q. 派遣料金が上がることで、派遣社員の時給も必ず上がりますか

派遣料金が上がっても、派遣社員の賃金が同じ割合で上がるとは限りません。

派遣料金には、派遣社員本人の賃金だけでなく、社会保険料、教育訓練費、採用費、派遣会社の運営費なども含まれます。本人の賃金・待遇への反映を重視する場合は、改定の目的と反映方針を派遣会社に確認するとよいでしょう。

Q. 値上げに応じない場合、現在の派遣受け入れは終了しますか

値上げに応じないことだけで、現在の労働者派遣契約が直ちに終了するわけではありません。

ただし、次回の契約更新時に、派遣料金その他の契約条件について派遣会社と派遣先が合意に至らない場合は、労働者派遣契約が更新されず、当該派遣社員の受け入れが終了する可能性があります。継続を希望する場合は、検討可能な金額、時期、次回協議の条件などを具体的に伝えておくとよいでしょう。

まとめ

派遣料金の改定を判断する際は、値上げ幅だけでなく、改定理由、本人の賃金・待遇への反映方針、業務内容・責任範囲、人材市場の状況、継続受け入れの必要性、自社の予算などを整理することが重要です。

提示された金額をそのまま受け入れる必要はありませんが、理由を確認せず交渉を拒むのではなく、検討可能な金額や適用時期、再度協議する条件などを派遣会社へ具体的に伝えるとよいでしょう。

派遣会社から派遣料金の改定を提示されたものの、理由や妥当性を自社だけで判断しにくい場合は、派遣先の立場から、確認事項、判断材料、派遣会社への伝え方を整理する外部の相談窓口を活用する方法もあります。

執筆:加藤 智広
社会保険労務士/アドバンスト社労士事務所代表
最終更新日:2026年8月1日