はじめに
※本記事では、派遣社員が実際に就業を始めてから、初回契約期間が終了するまでの対応を「受け入れ」と定義しています。
「派遣社員を新たに受け入れたが、現場に確認したところ、うまくマッチしていないようだ」「先月から就業を始めた派遣社員について、次回の契約更新はしないと派遣会社より話があった。どうしよう」「3人連続で初回の契約で終了している。原因を究明し、改善するように上長より指示があった」
このようなお悩みや課題は、派遣社員本人のスキルや現場とのマッチング、派遣会社の対応が原因とは限りません。派遣先企業(以下、派遣先)の受け入れ体制や現場での派遣社員に対する指揮命令の状況、派遣社員のスキルに対する関係者間での認識の相違などが影響している場合もあります。
本記事では、派遣先の立場から、派遣社員の受け入れがうまくいかない原因と改善するためのポイントについて解説します。
派遣社員の受け入れがうまくいかない主な原因
派遣社員の受け入れがうまくいかない場合、派遣先側には次のような原因が考えられます。派遣社員は業務に対するスキルを有していることを前提に就業を開始することが多いですが、派遣先独自の業務フローや指揮命令系統、社内ルールなどについては、派遣会社からの説明や職場見学を実施している際はその時に説明があった範囲のみ、理解している状況です。
そのため、「実務経験者だから説明しなくても大丈夫だろう」と業務説明を省略する、あるいは、「ベテランに細かな指示は不要だろう」と考え、対応を任せた場合、派遣社員本人は「説明がない」「指示がないのに業務対応を依頼された」と受け止めてしまう場合があります。派遣先が派遣社員のスキルを信頼して行った対応が、派遣社員にとって不安や誤解を与えてしまう結果につながる可能性があることに留意しましょう。
- 派遣社員に依頼する業務内容や期待値が、事前に関係者の間で十分に共有されていない
- 就業が始まったにもかかわらず、受け入れ体制が整っていない
- 指揮命令者を設定したが、うまく機能していない
- 現場側が「派遣社員は即戦力だから大丈夫」と過信して、必要な教育やOJTが不足している
- 業務以外の職場環境や社内ルールについて説明が不足している
- 派遣会社との情報共有が不足している
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派遣社員は即戦力という言葉を過信しない
「派遣社員は派遣単価に見合ったスキルを有しているはずだから、即戦力なはず」「業務経験者だから、新入社員に行うような細かい説明は不要」と考えて、派遣社員を受け入れる派遣先もあると思います。
しかし、実際に業務を進めていくうえでは、会社ごとに異なる業務フロー、使用するシステムの違い、社内独自の用語、社内関係者のみが理解している暗黙のルールを理解することが必要です。これらを十分に教えていない、派遣社員が理解できていない状態で業務を任せた場合、派遣社員本人の視点として次のような流れになることがあります。
Aさん(派遣社員)がB業務を前職と同様の方法で対応したところ、この会社ではやり方が違う、とCさん(社員)より指摘を受けた。指摘を受けたことにAさんは戸惑いを覚え、自身のスキルについて自信を失う。その後も業務対応を進めるが、再度指摘を受けるのでは、という不安が消えない状況が続く。不安を解消したいが、派遣社員という立場から周囲に確認がしにくい。その状況が続き、徐々に居心地が悪くなる。
といった負のスパイラルに陥り、業務スピードの低下による現場の負担増加や派遣会社から業務や指摘に対する相談が入る、派遣社員本人が契約更新を希望しないといった結果につながることがあります。派遣社員本人は周囲が考えている以上に、自身に支払われているコストや求められているスキルを理解しています。そのため、スキルは十分にあるにもかかわらず、受け入れがうまくいかないケースにつながらないように注意が必要です。
ポイント① 就業初日の受け入れ準備を整える
派遣社員の受け入れは、就業初日の印象がその後の定着に大きく影響します。初日を迎えるにあたり、社内で確認しておきたい最低限の内容は次のとおりです。これらが準備不足や曖昧な状態で就業初日を迎えた場合、「自分は歓迎されていないのでは」「ここで働いて大丈夫だろうか」と派遣社員本人が不安を感じる可能性があります。
外部環境の影響などによって、業務で使用するPCや備品の在庫がなく、準備をしたが間に合わなかったケースも出てくると思いますが、その場合は、事前に派遣会社を通じてその旨を派遣社員本人に伝えておくとよいでしょう。出社してから用意ができていないことを知るのと出社する前に知るのでは、受け取り方が変わり、派遣会社も就業初日を変更するといった対応を考えることができます。
- 就業初日の集合場所および出社時間
- 受け入れ担当者およびOJT担当者
- 座席やPC・アカウントなどの社内インフラの状況
- 勤怠管理の方法
- 休憩時間の過ごし方や社内ルール
- 担当業務を任せるまでのタイムスケジュール
- 困ったときや相談内容ごとの相談先
ポイント② 担当業務を明確にする
派遣社員が担当する業務は、できるかぎり具体的に整理しておくことが求められます。特に派遣契約書に記載されている業務と現場で依頼する業務に相違が発生しないように、関係者間での認識の共有が重要です。原則として契約書に明記されていない業務の依頼はできません。業務を追加・変更する場合は派遣会社と協議し、契約内容の変更が必要かを確認したうえで、必要に応じて派遣社員本人にも説明・確認を行う必要があります。
「ついでにこの業務もお願いします」「手が空いているようだから、手伝ってください」「慣例上、この業務は派遣社員が担当することになっているから」といった形で業務を依頼した場合、契約で業務内容が定まっている派遣社員のはずが、なんでも対応する便利屋のような存在になってしまい、派遣社員本人も戸惑いを覚え、モチベーションの低下につながる可能性があります。当初想定していた業務と実際に依頼している業務の状況について、定期的に確認しておくことが大切です。
- 依頼する業務の詳細
- 自身で判断して進めてよい範囲と確認が必要な範囲
- 業務の優先順位のつけ方
- 不明点が発生した際の確認先
- 対応させない業務
ポイント③ 指揮命令系統や相談先を明確にする
派遣社員にとって、誰の指示を優先すべきか曖昧な状態は大きな負担になりえます。
たとえば、Aさんの指示でB業務を優先したところ、Cさんよりそれは違うと指摘を受けた。Cさんの指示に従って今度はD業務を優先したが、EさんよりAさんが正しいと言われた。誰の指示を優先すべきかわからない、という状況です。派遣社員は業務を遂行するスキルは有していますが、派遣先の業務フローや社内ルール、関係者間での暗黙の了解などは誰かが教えない限り、認識していません。
また、何度も社員へ確認する行為は、自身の評価に影響を与えるのではと不安を覚えるため、躊躇しがちです。そのため、派遣先より派遣社員本人に指揮命令系統や相談先を周知することが必要です。その際に派遣社員本人に周知したとしても、現場内で共通認識になっていない場合は混乱を生む原因になってしまうため、現場内での周知についても合わせて行うようにしましょう。
関連コラム:派遣社員への業務指示|契約範囲と指揮命令で注意したいこと
ポイント④ 派遣会社との情報共有を欠かさずに行う
派遣社員の受け入れを安定させるためには、派遣会社との情報共有が欠かせません。受け入れ後に違和感を感じることや懸念などが出てきた場合は、早い段階で派遣会社へ共有することが大切です。派遣会社も就業初日、1週間後、1ヶ月後などに面談や電話などで派遣社員本人へ就業状況の確認を行っていることがありますが、実際のところは派遣先に確認するまで分かりません。
そのため、「派遣会社が派遣社員本人と連絡を取っているはずだから、何かあれば連絡が入るだろう」「業務対応について不安を感じる場面はあるけれども、まだ就業が始まったばかりだし、派遣会社に伝えるのは止めておこう」と自社内で判断、完結するのではなく、派遣会社に状況の確認や、就業状況についてのフィードバックすることが大事です。「あのとき伝えておけばよかった」「派遣会社は知らなかったのか」と結果が判明した後に振り返り、反省する事態は避けるようにしましょう。
また、派遣会社に状況を共有する場合は主観的な表現ではなく、状況をできるだけ具体的に伝えるようにしましょう。派遣会社に正確に状況を伝えることで、派遣社員本人への適切なフォローや今後の改善につながりやすくなります。
- どの業務でつまづいているか
- いつからその状態が見受けられるか
- 現場でどのようなフォローをしているか
- 派遣社員本人からの相談有無、相談が入っている場合は具体的な相談内容
- 派遣先として今後どのような対応を希望するか
関連コラム:派遣会社とのやりとり|認識の相違を防ぐ連絡・確認のポイント
受け入れ体制を改善するためのチェックリスト
派遣社員の受け入れがうまくいかない場合は、次の点を確認するようにしましょう。派遣社員の定着や働きぶりは派遣社員本人の能力や置かれている状況だけで決まるものではありません。派遣先の準備や関わり方によって、影響を受けることがあります。
- 就業初日を迎えるための準備は整っているか
- 業務内容や期待値を関係者の間で共有しているか
- 派遣契約上の業務内容と実際の業務に相違はないか
- 現場側が「派遣社員は即戦力だから大丈夫」と過信しすぎていないか
- 指揮命令者や相談先は明確になっているか
- 派遣会社との情報共有は適切にできているか
- トラブルが起きたときに記録や経緯を残しているか
まとめ
派遣社員の受け入れがうまくいかない場合、原因を派遣会社や派遣社員本人に求めるだけではなく、派遣先の受け入れ体制を見直すことも重要です。当事務所では派遣会社側ではなく、派遣先の立場から派遣社員の受け入れや定着率の改善、派遣会社とのコミュニケーションに関するご相談を承っています。
「派遣社員の受け入れがうまくいかない」「現場の対応が適切か自信がない」「派遣会社との情報共有やコミュニケーションに不安がある」といった場合は、派遣会社とのやりとりや現場での対応を整理することにより、改善の糸口が見つかることがあります。必要に応じて、お問い合わせフォームよりご相談ください。
