はじめに

派遣先企業(以下、派遣先)として、現在就業している派遣社員について、次のように考えたことはないでしょうか。

  • いま以上に広範な業務や責任あるポジションを任せたい
  • 期待以上の働きぶりを示してくれているため、このまま長期的に就業してもらいたい
  • 一時的な要員として考えていたが、業務が恒常的に見込める状況になったため、直接雇用に切り替えたい
  • 派遣法の期間制限を迎えるため、対応策を検討する必要がある
  • 派遣会社より社員登用の相談と紹介手数料について話があった。どう対応するべきか

派遣社員の直接雇用への切り替えは、派遣社員の活用における出口戦略の一つといえます。現在就業中の派遣社員について、自社での直接雇用化を希望し、派遣会社、派遣社員本人の三者間で円滑に話を進めることができれば、三者共にメリットのある結果につなげることができます。

一方で、進め方を誤った場合、派遣会社との認識の相違や紹介手数料をめぐるトラブル、直接雇用に至らず契約終了になるリスク、派遣社員本人との間で雇用条件をめぐるトラブルなどに発展することがあります。そのため、直接雇用への切り替えを検討する場面では、派遣会社との契約内容や紹介手数料の有無、直接雇用への切り替えに関する取り決めを確認しておくことが大切です。

本記事では、就業している派遣社員について、自社の直接雇用への切り替えを検討する際に、派遣先として確認しておきたいポイントを解説します。

派遣社員について直接雇用への切り替えを検討する場面

派遣社員について、直接雇用への切り替えを検討する場面としては、次のようなケースがあります。

  • 自社の社員と同様に責任ある業務を任せたい
  • いま以上に広範な業務を担当してもらいたい
  • 派遣社員の勤務状況がよいため、今後も継続して勤務してもらいたい
  • 派遣法の期間制限を迎えた後も、引き続き同業務を任せたい
  • 今後の社内体制を見据え、派遣先側で人材を確保したい

派遣社員を直接雇用に切り替えることは珍しいことではありません。採用難が続く状況下で、自社での就業実績があり、業務内容や職場環境を理解している派遣社員を自社で雇用することは、派遣先にとって有効な選択肢となります。

一方で、派遣社員として就業している場合の派遣社員本人の雇用主は派遣会社です。そのため、直接雇用するかどうかの検討段階に入った場合、まずは派遣会社との契約内容や今後の進め方を確認する必要があります。

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ポイント① 派遣会社との契約内容を確認する

派遣社員について、直接雇用への切り替えを検討する場面において、まず確認すべきことは派遣会社との契約内容です。特に確認したいのは次のような項目です。

  • 労働者派遣基本契約書(以下、基本契約書)
  • 個別契約書
  • 紹介予定派遣に関する定め
  • 職業紹介に関する定め
  • 直接雇用へ切り替える際の紹介手数料に関する定め
  • 派遣契約終了後の取り扱いに関する定め

派遣社員を直接雇用に切り替える場合、派遣会社から「紹介手数料」や「紹介料」の話が持ち出されることがあります。基本契約書や個別契約書などに紹介手数料に関する定めがない場合は、派遣会社が派遣先に対して紹介手数料を請求できるとは限りません。そのため、契約書などにどのような定めがあるかを確認することが必要です。仮に契約書に紹介手数料の記載されている場合であったとしても、それだけで支払い義務があると判断するのではなく、事実関係を整理したうえで、判断するようにしましょう。

なお、紹介予定派遣として契約を締結している場合と一般派遣として契約を締結している場合では、直接雇用化に対する考え方が異なります。紹介予定派遣の場合、もともと将来の直接雇用化を前提とした仕組みであるため、紹介手数料が契約上定められていることが一般的です。一方で、一般派遣の場合は定められていない場合があるため、注意が必要です。

関連コラム:派遣会社とのやりとり|認識の相違を防ぐ連絡・確認のポイント

派遣社員を派遣先の直接雇用に切り替えることについての派遣法上の考え方

派遣法では、派遣会社(派遣元事業主)が正当な理由なく、派遣先と派遣労働者との雇用関係の成立を妨げるような契約を締結することを制限しています。つまり、派遣先が派遣社員を直接雇用することは禁止されていません。

ただし、実務上では派遣会社との契約内容が関係してくるため、次のように進めていくとよいでしょう。

  • 締結している契約書内の直接雇用・社員登用に関する事項の確認
  • 派遣会社との協議
  • 直接雇用後の雇用条件の決定
  • 派遣社員本人への意思確認

※参考 労働者派遣法では次の定めがあります

派遣労働者に係る雇用制限の禁止

第33条 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者(派遣先であつた者を含む。次項において同じ。)又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用されることを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

2 派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者に係る派遣先である者又は派遣先となろうとする者との間で、正当な理由がなく、その者が当該派遣労働者を当該派遣元事業主との雇用関係の終了後雇用することを禁ずる旨の契約を締結してはならない。

ポイント② 派遣社員本人の意思を丁寧に確認する

派遣社員を直接雇用に切り替える場合、派遣会社とのやりとりのみではなく、派遣社員本人の意思確認についても重要です。派遣先が派遣社員に対して、次のような評価している状況であったとしても、必ずしも派遣社員本人が直接雇用を希望しているとは限らないことに留意しましょう。

  • 長期間に渡って、就業してくれている
  • 業務に慣れている
  • 職場に馴染んでいる
  • 自社の社員に切り替わってくれれば助かる

派遣社員本人が、次のような事情を抱えていることがあります。

  • 派遣社員という働き方を希望している
  • 勤務日数や勤務時間などに制限がある
  • 将来、転居の可能性がある
  • 社員になることによって、いま担当している職種や業務が変更になる可能性が生じることを避けたい
  • いまの待遇に満足しているため、強くは希望しないが、直接雇用後の待遇次第では検討したい

そのため、直接雇用化の話を進める際は、派遣社員本人の意思確認を丁寧に行うことが大切です。「派遣社員として勤務してくれているから、畏まる必要はないだろう」「派遣社員から正社員への切り替えを喜ばない人はいないだろう」と安易に考えず、自社の社員ではない第三者を相手にする心構えで対応することがポイントです。

また、派遣契約期間中は派遣社員は派遣会社の社員です。いきなり派遣先が派遣社員本人に直接打診をするのではなく、まずは派遣会社に相談し、進め方を確認するようにしましょう。派遣会社は、派遣社員の雇用安定やキャリア形成の観点から、派遣先での直接雇用に関する対応方法を社内で設けていることが多いです。派遣先、派遣会社、派遣社員本人の三者間で認識を揃えながら進めることが後のトラブル防止につながります。

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ポイント③ 雇用条件を明確にする

派遣社員について、直接雇用への切り替えを進める際は、切り替え後の雇用条件を明確にしておくことが必要です。雇用条件として決めるべき事項は、社員採用時などに使用している労働条件通知書の記載事項と同一の内容になります。その中でも注意すべき項目は次のようなものです。特に賃金の締切日・支払日、所定外労働の有無などが派遣社員時から変更になることが多いため、注意しましょう。

  • 雇用形態
  • 契約期間
  • 就業場所
  • 従事すべき業務の内容
  • 就業時間
  • 休日
  • 所定外労働の有無
  • 賃金(締切日・支払日を含めて)
  • 有給休暇(派遣期間中の就業日数が考慮されるかどうか)

雇用条件を決定する際に特に留意すべき事項は、賃金です。直接雇用後の想定年収を時給換算した金額が派遣社員時の賃金を下回る場合、派遣社員から直接雇用に切り替わるメリットは低下します。見方によっては、収入が下がる一方で責任だけ重くなるため、申し出を断られるケースもあります。派遣社員の賃金形態は時給制、賞与は支払われないことが多いです。

一方で、直接雇用の場合は月給制や年俸制への変更、賞与の支給など、賃金体系や待遇面に何らかの変更が生じることが想定されます。年収ベースで見た際に、派遣社員本人にとってメリットのある条件になっているか、必要に応じて調整することも視野に入れておきましょう。

また、派遣会社から派遣社員本人に支払われている賃金額は、基本的には派遣先には開示されていません。しかし、直接雇用時の想定年収を決定する際の材料として必要になることもあるため、本人の同意を前提に、派遣会社に相談して確認できる範囲を整理するとよいでしょう。派遣会社の対応としては、派遣社員本人の了承を得たうえで賃金額を開示する場合や、平均的な賃金水準、マージン率などの情報に置き換えて説明をする場合があります。

なお、派遣社員本人の視点では雇用形態や収入面だけではなく、働き方、収入以外の待遇面がどのように変わるのかについても、意思決定をするうえで必要な要素です。雇用条件が明確でない中で話を進めた場合、後から認識の相違や直接雇用を辞退する事態が起きる可能性があるため、明確にしておきましょう。

ポイント④ 申請できる助成金の有無を確認する

派遣社員を直接雇用に切り替える場合、助成金の申請ができる場合があります。たとえば、有期雇用労働者や派遣労働者を正社員登用する場合、一定の要件を満たすことでキャリアアップ助成金の対象となることがあります。助成金を活用したい場合は、次のような内容を事前に確認しておくとよいでしょう。

  • 今回の事例に対応する助成金があるか
  • 申請要件を満たしているか
  • 申請期限はいつまでか
  • 自社内で対応できるか

助成金の申請については、申請の手順が定められていることがあります。「要件を満たしているから申請しよう」と一定の時間が経過した後に申請をした場合、申請に必要なスケジュール要件を満たすことが困難な場合があるため、早めの確認が大切です。

なお、助成額や要件は年度ごとに変わることがあるため、直接雇用化を検討し始めた段階で、最新の要件を確認するようにしましょう。

直接雇用への切り替えを進める際に確認しておきたいポイント

派遣社員について、直接雇用への切り替えを進める際には、次のような点に注意が必要です。

  • 派遣会社との契約内容を確認せずに話を進めてしまう
  • 紹介手数料の根拠を確認していない
  • 派遣会社とのコミュニケーションが不足している
  • 派遣社員本人の意思確認を簡易的に済ませている
  • 直接雇用後の雇用条件が明確になっていない
  • 助成金の確認が後回しになっている(助成金の申請を検討している場合)

まとめ

派遣社員を直接雇用に切り替えることは、派遣先にとって勤務実績のある人材の確保になり、組織の安定などにつながる有効な選択肢といえます。

ただし、直接雇用への切り替えをスムーズに進めるためには、派遣会社との連携や派遣社員本人への対応を適切に行う必要があります。特に派遣会社との契約内容や紹介手数料に関する事項の確認、派遣社員本人への説明などは後のトラブルを防ぐうえでも大切なポイントです。

「派遣社員について、直接雇用への切り替えを検討している」「派遣会社との契約内容や進め方に不安がある」「直接雇用に切り替えるべきポジションかどうか判断したい」といった場合は、必要に応じてお問い合わせフォームよりご相談ください。